ドライトレーニングの解説② 【水泳に還元させるための理論】

ドライトレーニングの解説② 【水泳に還元させるための理論】

水泳のパフォーマンス向上には、技術練習(スイム)だけでなく、陸上でのトレーニング(ドライランドトレーニング)が不可欠です。
そして、ただ筋トレを行うのではなく、【水泳動作に適応させて行く事】が重要です。これを競技特性と言います。

実際にどうすれば、水泳のパフォーマンス向上に繋がるのでしょうか?
この部分を深掘りしていきたいと思います。

ドライトレーニングの解説② 【水泳に還元させるための理論】ファンクショナルトレーニング

ドライトレーニングの解説② 【水泳に還元させるための理論】ファンクショナルトレーニングとは?

【ファンクショナル(functional)】
「機能的な」「実用的な」と言う意味を持つ言葉です。
スポーツの場面では、ファンクショナルトレーニングと言う表現をしますが、以下の様なニュアンスで使われます。

▶︎日常動作やスポーツ動作に直結するトレーニング
▶︎ 体幹や複数の筋肉を同時に使うことで、実際の動きのパフォーマンスを向上させる

プランク (体幹)をしながらバタ足の動きをするなどはまさしくこれに該当します。
この様に、水泳動作で実用的なトレーニングを行う事で、水泳のパフォーマンスが向上するのです。

ファンクショナルトレーニングとは?なぜ、この理論を採用しているの?

ファンクショナルトレーニングとは
Gray Cook や Michael Boyle などが提唱している理論です。
以下に、その理論の概要をまとめておきます。

エクササイズの細部に注意を払うことは重要だが、基礎がしっかりと碓立されることで初めて意義のあるものとなる。このことが行われた場合にのみ、基礎が他の構造や機能を効果的にサポートすることができる。
本書の提案はシンプルである。「トレーニングを行う前に動作パターンのスクリーニングを行うこと」 である。不良な動作パターンのままでトレーニング を行うと,運動の質が低下し傷害のリスクを増大させてしまう。もし不良な良動作パターンを認めたら、シンプルなエクササイズによって修正し、その後に基準(ベースライン)と比較することで再確認できる。

MOVENENT:2ページから抜粋
著者:Gray Cook 他2名
https://amzn.asia/d/aHH7pqd

つまりは、基礎ができていないと、、、
どんなトレーニングをしても意味をなさないし、
怪我のリスクに繋がることもあるよ。

もし、エラーが見つかったら、
基本的な種目で修正してね。

そんな事を提唱している理論な訳です。
当たり前ですが、大切な考え方ですね。

しかしほとんどの選手は、効率を求めたり、焦りが出たりで基本的なことを飛ばして、応用ばかりに進んでしまうのです。

仮免の状態で、いきなりスポーツカーに乗ろうとしている状態です。そう考えると先ほどの説明は理にかなっていますね。

ドライトレーニングの解説② 【水泳に還元させるための理論】ファンクショナルトレーニングの段階分け

ファンクショナルトレーニングは、大まかに4段階に分かれます。
書籍やセミナーで学んだ内容を「水泳仕様」にアレンジしてみました。

陸トレ(ウエイトトレーニング・ドライトレーニング)を水泳に変換していくまでの段階/スイサポ

何事においてもそうですが、基礎がしっかりしているからこそ、応用スキルが大きくなっていくのです。

ファンクショナルトレーニングの段階分け1.基礎技術練習 / Technical Drill

この段階では、基礎をしっかりと碓立させること が目的です。

▶ストレッチ(静的・動的)

この段階では、
そもそもの筋肉の柔軟性 (=関節の可動域)
を向上させること
に趣を置いています。
水泳に限らず、スポーツを行う上で柔軟性は大切ですが、水泳の場合は効率よく水を捉えためにも、水中姿勢を保ちボディポジションを保つためにも、もちろん怪我の予防のためにも、筋肉の柔軟性 (=関節の可動域) の確保は重要なのです。


▶ 部分トレーニング(単関節/コレクティブ)

「ヒップリフト」や「ニー・アップ」「クランチ(腹筋)」など一つの筋肉のみを鍛える種目が該当します。

こちらは、以前解説したJoint by Joint理論に基づいて各関節の役割分担をハッキリさせるために行います。

体幹(腰部) と 肩甲骨周囲 は自分の筋肉でしっかり支える
肩関節・胸椎(肋骨)・股関節・足関節は正しく動かせるようにしていく

この役割分担ができているからこそ、水泳のパフォーマンスが向上するのです。


基本的な筋トレ種目

ベンチプレス(BP)、スクワット(SQ)、デットリフト(DL) などの基本的なウエイトトレーニング、
腕立て、懸垂、腹筋(クランチ)プランク
などの一般的な筋トレ これらが該当します。

ここで大切なのは、
▶キレイな姿勢、フォームで行う事
▶使用している筋肉を意識していく事
▶上記2つを保てる負荷で挑戦する事
まずは、この3つが大切だと考えています。
これが確立できてから、重量を上げていけば良いです。


この様な作業を繰り返していきながら、
基礎をしっかりと碓立して行くのです。

ここで言う基礎とは、

自分の身体を思い通りに動かす事
= 関節の役割分担や筋肉を使う感覚をハッキリさせる事


これは完全に僕の肌感ですが、入部から1年くらい時間を要すると思います。

入部~インカレ直前までは、この基礎を徹底的に叩き込み、
大競2~4年の冬の時期に基礎をどんどん大きくしていく。
理想は、高校時代に基礎を作り終えて、1年目からブーストかけていく。
これが僕の理想です。

ファンクショナルトレーニングの段階分け2.応用技術練習 / Technical Skill Application

この段階では、水泳動作に変換していくための仕込みをしていきます。

▶ 腹圧を入れながら片手のダンベルプレス
▶ 腹圧を入れながらランジ
▶ プランクをしながら骨盤の前後傾


これらが該当します。
平たく言えば、体幹と上半身 / 体幹と下半身 の様に2つの事を同時に意識するといった感じです。

ここでも「Joint by Joint 理論」が絡んでくるわけです。
体幹(腰部) と 肩甲骨周囲 でしっかり支えて、肩関節・胸椎(肋骨)・股関節・足関節 は正しく動かす。
この役割分担を崩さない様にして行くための基礎を築いていくのがこの段階の目的です。

ファンクショナルトレーニングの段階分け3.競技技術変換 / Skill Application

いよいよ水泳動作に変換していく段階です。

▶ シーソー や プランククロール などの水泳動作に近いトレーニング
 水中のDrill 練習

これらが該当します。
平たく言えば、体幹×肩甲骨周囲×上半身×下半身の様に全身を同時に意識する(コントロールする)といった感じです。

この段階では、水泳動作に近い動を再現したり、水泳動作には直結しないものの、複雑な動きを繰り返し行う事で、
いかなる状態や負荷がかかっても、
自分の身体を思い通りにコントロールできるようにする事
が目的
です。

ファンクショナルトレーニングの段階分け4.競技技術練習 / Sports Skill Application

この段階では、実践に近い形式でトレーニングをしていきます。
ラグビーであれば、【タックルした後の動作や反応】
サッカーであれば、【シュート直後のステップやダッシュ】
など、各競技のあらゆる局面を想定、再現したトレーニングを行いますが、水泳競技の場合は、SWIM が該当します。

Hard hold や Dive 等はまさしく実践練習ですね。

この辺りまで来たら、コーチ陣に練習の意図をしっかり聞いて練習に打ち込んでください。

水中練習中に感覚が悪い、体幹が抜ける感じがする。
前半は良いけど、後半負荷負けしてしまう。
などのエラーが起きた場合には、1~3番を見返し、修正していくしかありません。

ドライトレーニングの解説② 【水泳に還元させるための理論】まとめ

水泳におけるドライランドトレーニングは、単なる筋トレではなく、
「水泳動作にどう繋げるか?」を常に意識して行う必要があります。

ポイントを整理すると、

基礎がなければ応用は効かない。
この前提のもと、

①基礎をしっかりと碓立させる / 基礎技術練習
②水泳動作に変換していくための仕込み / 応用技術練習
③水泳動作への変換 / 競技技術変換
④Swimで実践に近い形式でトレーニングを積む / 競技技術練習 

この一連の流れが大切なのです。

その中でも、特に大切なのは、
②応用技術練習 と ③競技技術への変換
この2つを上手く嚙合わせる事が重要です。

何この2つが上手くつながるか否かで
筋トレが水泳に活かされるか?
それとも巷で噂されるような「無駄筋」になってしまうのかこの明暗がハッキリとしてきます。

そうならないためにも、ドライランドトレーニングは、「やったかどうか」ではなく
「何を意図して、どの段階にいるか」が大切。

そして、どこかでつまずいた時は、また前の段階に立ち返って整えていけば良いのです。

身体を理解し、動きを整え、段階を踏んで水泳動作に落とし込む。
これこそが、パフォーマンスを最大化し、
怪我を防ぐための本質的なトレーニングだと僕は考えています。

難しい内容ではありますが、少しずつ意識してみて下さい。

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