水泳選手に「ウエイトトレーニングは良くない」という巷の噂について

水泳選手に「ウエイトトレーニングは良くない」という巷の噂について

こんにちは、スイサポの齋藤です。
今でこそ、かなり認知されてきたウエイトトレーニング。
多くのトップスイマー積極的に取り組んでいます。

しかし、巷では未だに「ウエイトをすると泳ぎが崩れる・硬くなる」と言う意見もあります。

最近では、ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸投手のトレーニング方法も話題に上がりますし、「ウエイトトレーニングをしなくても結果は出せる」というコメントも再注目されています。
イチロー選手も「体を大きくするためのウエイトトレーニングはしない」と話しています。

デイリー新潮 2025年10月30日 配信記事

果たしてどうなのでしょうか??
今回はそんなホットな話題について考察していきたいと思います。

水泳選手に「ウエイトトレーニングは良くない」という巷の噂について結論 (持論)

さて、僕の考えからお伝えすると

" ウエイトは必要。でも工夫が必要。"
以前からこの結論に至っています。

もちろん、全ての人にこれが当てはまるわけではないので、僕が指導しているチーム内でも、あえてウエイトをさせない選手もいますが、基本的には上記の考えで考えでいます。

水泳選手に「ウエイトトレーニングは良くない」という巷の噂についてウエイトは不用と言う点について

まず、ウエイト不用論について。
もう一つ有名なのが、イチロー選手の過去のコメント。

「体を大きくするためのトレーニングは不用」
「トラやライオンは筋トレしない」

※1999年に神経筋生理学者・小山裕史氏との会談で述べられたものであるとされています。
※ここで注意ですが、イチロー選手も初動負荷トレーニングという内容は実施しており、あくまで「体を大きくする(=筋肥大の)トレーニングは不用」と言う事みたいですね。


これに対応し、ダルビッシュ選手は、以下の様にコメントしています。

「昔は野球選手もウエイトトレーニングをしなかったから、トラとかライオンが生き残って、シマウマは生き残れなかった。
今はシマウマがウエイトトレーニングを始めて、トラとかライオンよりも強くなっている。だから、トラとかライオンもウエイトトレーニングしないといけなくなってきた。
イチロー選手は頭のいいライオンだから、ウエイトトレーニングしなくても生き残って多くの餌をとってこれた。」

トラやライオン = 生まれつき身体能力が高い野球選手のたとえ
シマウマ = 生まれつき身体能力が低い野球選手のたとえ


これは僕も同じ見解です。

圧倒的な競技センスを持つ選手もいますし、中にはそれに加えて肉体強化をしている選手もいます。
つまり、自分より競技レベルの高い選手がしているのに、試さない選択肢はないと思うのです。

その上で、実際に進めていく中で、「やはり自分には合わないし、やらない選択をした方が成績が良い」と確認できたのであれば別の話です。

兎にも角にも、
試してない段階あるいは、試してから日が浅い段階
この考えこそ万人に共通する良い方法だ
流行っているし、あの人が結果出しているから正しい

と安易に決断するのは勿体ないと思うのです。

水泳選手に「ウエイトトレーニングは良くない」という巷の噂について水泳選手にウエイトは良くないと言う点について

さて、こちらについては一理あると思います。
僕自身、ウエイトは必要だけど工夫が必要と感じている派です。

理由はこちらの論文👇

要約すると、「水泳動作に近いドライランド・トレーニングほど、水中パフォーマンスへの転移効果が高い。」という事を示しています。

▶︎ドライランド・レジスタンストレーニングを実施する際に、“水中動作との関連性(モーション・スピード・関節角度・出力方向)を高める”ことを意識すべきです。

▶︎例えば、プールでのストローク/ドリルと似た上肢運動軌道を陸上器具で模倣する。出力方向(水平に近いプル動作)や動作スピード/パワー性を意識するなどが当てはまります。

▶︎ただし、従来のウエイト/重負荷トレーニングが無意味というわけではなく、基本的な筋力・パワーの底上げとして役立つため、モダリティを“完全に切り替える”というより、“スイム特異モダリティを意図的に組み込む”という設計が現実的です。

▶︎12週程度という中期スパンで、ある程度の速度改善(本研究では+4%程度)が見られたというデータが出ていますので、シーズン初期〜中盤にかけてこのような設計を組み込むことも検討価値があります。

▶︎また、トレーニング効果の“転移”を最大にするには、タイミング/頻度/競技水泳との組み合わせ(=水泳練習+陸トレ)のバランスも重要です。陸トレばかり増えて水泳練習が削られると、そもそものスイム技能・テクニックが落ちる可能性があります。

▶︎若手選手においては、15〜16歳という発育期でもこのような効果があったため、発育・成長期の選手でも“スイム特異的ドライランド”を導入可能であるというポジティブな示唆があります。

もちろん、研究なので特定の条件下でのデータですし、特殊な器具もほとんどのチームでは手に入りません。

この研究でも記載がありますが、「ドライランド・トレーニングを行えば水泳パフォーマンスが必ず大きく改善する」という単純な結論を支持するわけではなく、“どのようなモダリティ(動作・器具)で行うか”が重要であることを示しています。

また、シンプルなウエイトトレーニングも完全悪・不用と論じてはおらず、基礎として必要だと示しています。
いわゆる、競技特性と言うやつですね。

この競技特性を考えると言う見解は他の文献でも見受けられるので、
▶︎ゆくゆくは水泳に近い動作を入れる
▶︎意図的に水泳に近い動きを取り入れる

などの工夫は必要なのだと考えています。

僕自身、大学・高校水泳部のトレーニングの設計は以下の様にしています👇

慶應水泳部の選手はこちら👇

ドライトレーニングの解説② 【水泳に還元させる方法】

水泳のパフォーマンス向上には、技術練習(スイム)だけでなく、陸上でのトレーニング(ドライランドトレーニング)が不可欠です。 そして、ただ筋トレを行うのではなく、【水泳動作に適応させて行く事】が重要です。これを競技特性と言います。実際にどうすれば、水泳のパフォーマンス向上に繋がるのでしょうか? 実際に大学水泳部の指導で採用・説明いている理論を紹介していきながら、これらの疑問を深掘りしていきたいと思います。

その他の方はこちら👇

水泳選手に「ウエイトトレーニングは良くない」という巷の噂についてまとめ

と言う事で、今回は巷で良く囁かれる議論について僕なりの考えをまとめてみました。

まぁ、ダメならダメでまた考えれば良いし、とりあえずやってみ?と言う感じですね。

上手くまとまっているかは分かりませんが、
今回はこんな形で締めたいと思います。

それでは👋

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