こんにちは、スイサポの齋藤です。
目標のタイムを出すために、ひとつでも上のレベルの大会に出るために、筋トレを取り入れるチームも多いと思いますが、以下の様な疑問を持たれたことはありませんか??
筋トレが水泳になかなか繋がらない。
どの様に設計をすれば良いのか分からない。
そもそも、水泳選手に筋トレは必要なの?
この辺りは、選手自身も良く理解していないケースもありますし、我々指導者側も、セミナーや文献を読みますが、自分の現場でその設備は再現できないというケースが多く躓くこともあると思います。
そこで今回は、実際に僕が大学チームで筋トレをどんな位置付けにしていて、どの様にトレーニングの設計をしているのか?
この辺りを紹介していきます。
結局、水泳選手に筋トレは必要なの?
さて、水泳選手が水泳以外のトレーニング (ウエイトトレーニング・陸トレ・ドライトレーニング など) を行う必要はあるのでしょうか?
僕の回答としては「必要」です。
恐らく皆さんも何となくそう感じていると思います。「速くなるには、筋トレしておいた方が良いよね。」と。
しかし、ここで疑問が生じてきます。
筋トレがどう水泳に活かされるのか分からない。
水泳の練習だけすれば良いんじゃないの?
これは、僕が指導している選手からも実際に質問を受けた内容です。
それはそうですよね。
水泳動作と筋トレ(腕立てや腹筋) は動作が全く別ですし、極論を言うと、水中と陸上なので全く条件が違います。
多くの選手は筋トレ (ウエイトや陸トレ) と 水泳 が完全に別物として認識されているケースが多く、これがなかなか筋トレが普及しない理由だと感じています。
では、競技特性という言葉がある様に、水泳っぽい動きを取り入れた筋トレをすれば良いのでしょうか?
例えば動画の様な種目ですね。
バタ足が入り、少し水泳に近づきましたね。
もちろん、この様なトレーニングも必要なのですが、これだけでは実際の水泳動作には直結しない。
と言うのがここ最近のトレーニング業界の見解です。
先ほども記載した様に、水泳動作と筋トレは動作も環境も違います。
このギャップをどう埋めて行けば良いのでしょうか?
水泳選手における筋トレの立ち位置
これは、水泳選手に限らずだと思いますが、
①常にベストパフォーマンスを出せる様にする事。
②その為に、筋トレとスポーツ動作 (= 水泳動作) を繋げる事。
これが、アスリートがトレーニングを行う意図であり、先ほどのギャップを埋める考え方です。
我々、S&Cトレーナー (選手の強化やコンディショニングを担当するトレーナー) 業界では、これを『適応的なシステムを作る』と表現しています。

表現が難しいですが、レース中に無意識かつ瞬時にエラーを修正できる状態を作りましょう。どんな状況にも適応しましょう。
といった感じです。
ただ水泳動作を模倣したトレーニングを行うのではなく、レース中のあらゆる場面を想定し、対策を立てていく事で筋トレを水泳に活かす事ができるのです。
- どんどん高速化していくスポーツ
なぜ、この様な考え方が普及しているのでしょうか?
その背景には、「スポーツの高速化」が関係していると言えます。
2025年のインカレ水泳でも男子100m自由形の決勝ラインは49秒台。
なかなかに速いですよね…。
様々な大会の標準記録も年々上がり、求められるスピードが速くなっていきます。
インカレ、インターハイ、JOの標準記録を突破したい。
自己ベストを更新して、表彰台に上がりたい。
その目標を達成するために、全力でレースに挑むはずです。
果たして、そんな全力を出しているレース中に細かい部分まで考えながら泳ぐ事は出来ますか?
例えば、
▶スタート失敗した時。
▶ターンで上手く壁を蹴れなかった時。
▶隣の選手の波に煽られた時。
▶一瞬、キャッチのタイミングがズレた時。
▶隣のレーンの選手が想定より速くて焦った時。
瞬間的なエラーや想定外の場面が左右する場面があり、焦る気持ちもわかりますが、頭の中で考えて泳ぐなんてことは難しいと思います。
理由はこちらの記事でも書いていますが、そもそも人間の仕組み上、考えながらスポーツ動作を行うことには向いていないからです。
この観点からも、その違和感に気付くことはできても、本気のレース中に、細部の修正までは難しいと思います。
だからこそ、そんな想定外が発生した際には、無意識かつ瞬時に修正できる様にしていきたい。
というのが今回のカギです。

- 解決の糸口
さて、前置きが長くなりました。
筋トレを水泳に繋げるためには、レース中のあらゆる場面を想定し、対策を立てていく事が必要。
この軸となる考えがこちらです👇
コンテクスチュアルトレーニングー運動学習・運動制御理論に基づくトレーニングとリハビリテーション 単行本 – 2019/12/13|フラン・ボッシュ (著), 谷川聡 (監修, 翻訳), & その他
近年注目されている、実際の競技動作に近い動きの中で技能や各体力要素を総合的に高めるトレーニングの理論と実践を記しているフラン・ボッシュ氏の書籍です。
筋トレを水泳に活かすために必要なポイントは以下の2つ。
①パフォーマンス向上に必要な3要素を鍛える。
②レース中のあらゆる場面を想定し、対策を立てる。
順を追って解説していきます。
競泳選手のパフォーマンスを上げるために必要な3要素
水泳選手 (アスリート) が、パフォーマンスを出して行く為には、以下の3つの要素が高い水準で備わっている事が大切だと考えられています。

競泳選手のパフォーマンスを上げるために必要な3要素- 身体機能

ここに当てはまるのは、皆さんも触れた事のあるような一般的な内容です。
筋肉量や筋力を鍛えるウエイトトレーニング👇
筋の柔軟性や関節の可動域を高めるストレッチ👇
スタビリティ関節・モビリティ関節の役割分担を明確にするドライランドトレーニング👇
この様な内容が該当していきます。
スタビリティ・モビリティの解説についてはこちらで解説しています👇
競泳選手のパフォーマンスを上げるために必要な3要素- 競技スキル

水泳の基本スキル全般を指します。
ここは説明は不要かと思います。
競泳選手のパフォーマンスを上げるために必要な3要素- 感覚統合

ここが少し難しいのですが、身体の感覚 (筋肉を使う感覚・重心の位置など) や目や耳からの情報を処理する能力、いわゆる神経系の内容が該当します。
水感を養う「触覚」のトレーニング👇
音に反応して素早く動く「聴覚」のトレーニング👇
重心の位置や移動、使用している筋肉を感じ取る「体性感覚」のトレーニング👇
これらが該当します。
- 余談 (トップアスリートは何をしている?)
Instagramなどでトップアスリートが通うパーソナルジムの投稿を見てみると、あまり見かけない複雑なトレーニングを行う様子が紹介されていますね。あれは何をしているのでしょうか?
トップアスリートの場合、3つの要素のうち「身体機能」と「競技スキル」この2つが既に高い水準にある。この前提が殆どです。
その上で、さらに勝たねばならない。
ではどうするのか?
残りの1つの要素である「感覚統合」のトレーニングを取り入れたり、それすらもすでに終えて、3つの要素を組み合わせたトレーニングを実施して、より高みを目指していくわけです。

我々はどう取り入れるべきか?
さて、筋トレを水泳に繋げるために、レース中のあらゆる場面を想定し、対策を立てていく事が必要で、そのためには3つの要素を高い水準で強化していく必要がある。
ここまでは、理解しました。
しかし、先ほども記載した様に「身体機能と競技スキルが既に高い」この前提のもと行う内容です。
世界規模の大会で戦う選手はほんの一握り。
我々はそんなチームではない。
しかし、これを取り入れたほうが筋トレを水泳に活かしやすい。
では、どうすれば良いのでしょうか?
現時点での僕の見解としては、「以下の様なサイクルを数年単位で組み込んでいくしかない」これが回答です。
なぜなら、時間は限られていますし、あくまで筋トレは補助エクササイズ。
そこに時間を割きすぎてしまい、水泳スキルの強化が疎かになってしまっては本末転倒です。
だからこそ、限られた陸トレの時間の中で
「今、何を強化すべきなのか?」ここを順序だてて取り組んでいく必要があると思います。

実際に、どの様な計画を立てているのかはこちらをのぞいてみて下さい👀
さて、今回はここまで。
次回は、一般的なスイミングチームや水泳部の環境で、実際にどの様にこの理論を再現していくのか?
トレーニング種目の解説や考え方をお伝えしていければと思います。
それでは👋
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水泳選手向けトレーニング種目・理論紹介に関連する記事
水泳選手に「ウエイトトレーニングは良くない」という巷の噂について
多くのトップスイマー積極的に取り組んでいます。
しかし、巷では未だに「ウエイトをすると泳ぎが崩れる・硬くなる」と言う意見もあります。
最近では、ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸投手のトレーニング方法も話題に上がりますし、「ウエイトトレーニングをしなくても結果は出せる」というコメントも再注目されています。
イチロー選手も「体を大きくするためのウエイトトレーニングはしない」と話しています。
果たしてどうなのでしょうか??
今回はそんなホットな話題について考察していきたいと思います。
意識するvs意識しない|タイムを上げるには結局どっち?【Vol.1】
「肩甲骨から動かして」「体幹を絞めて」
「キャッチの角度はこうして」
「〇〇を意識して」というタイプのアドバイス。
「考えすぎだよ、もっと自然に!」
「レース中はそんなこと考えないでしょ?」
「意識してはいけない」というアドバイス。
真逆のアドバイスですが、どちらも一度は聞いた事があると思います。
どちらを参考にすれば良いのでしょうか?
今回は、このテーマの解決の糸口を探すために、運動制御理論 前編をご紹介していきます。
水泳選手にも知って欲しい【トレーニングの原理・原則】
水泳選手に限らず、トレーニングを行う全ての方に共通する基本的な考え方です。
トレーニングの理論を知り、練習メニューを意図を汲み取る事ができれば、トレーニングの効果を飛躍的に引き出す事が期待できるのです。スイサポでは、皆さんが自立して練習に取り組める様にサポートしてまいります。何かお困りな事があればお気軽にご相談ください。








