水泳選手にも知ってほしい機能解剖学【肩関節編part1】

水泳選手にも知ってほしい機能解剖学【肩関節編part1】

速く泳ぐために。怪我をしないために。そんな思いで陸上トレーニングをされる方も多いでしょう。トレーニングも意図を理解して取り組む事でその効果を発揮し易いと考えています。

↓トレーニングの原理・原則
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そこで、今回は解剖学シリーズ第一弾。肩関節編。
難しい話ですが、トレーニング効果を少しでも多く獲得するために、理解を深めていきましょう。頑張って噛み砕きます(笑)

もし、難しければいつでも相談下さい(^^)
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トレーニング効果を最大限得るために水泳選手にも知って欲しい。肩関節の機能解剖学

トレーニング効果を最大限得るために水泳選手にも知って欲しい。1.肩関節の動き

以下は、関節の動き(今回は肩関節の動き) を表す表現です。
スタートから難しい用語が出てきますが、イラストを見ながら覚えてみて下さい。

屈曲(くっきょく):前からバンザイする動き
伸展(しんてん):バンザイした腕を前から降ろす動き
水平屈曲(すいへいくっきょく):腕をT字に開いた状態から腕を前に閉じる動き
水平伸展(すいへいしんてん):腕をT字に開いた状態から腕を後ろへ開く動き
外転(がいてん):横からバンザイする動き
内転(ないてん):バンザイした腕を横から降ろす動き
外旋(がいせん):腕を外に捻る
内旋(ないせん):腕を内に捻る

さらに、外旋・内旋は3つのポジションに分かれます。

外旋1st (がいせん 1stポジション):小さく前ならえの状態から腕を外側に開く
外旋2nd(がいせん 2ndポジション):腕をT字に開いて肘を曲げた状態から上に捻る
外旋3rd(がいせん 3rdポジション):アイーンの状態から上に捻る

内旋1st(ないせん 1stポジション):小さく前ならえの状態から腕を内側に閉じる
内旋2nd(ないせん 2ndポジション):腕をT字に開いて肘を曲げた状態から下に捻る
内旋3rd(ないせん 3rdポジション):アイーンの状態から下に捻る

トレーニング本や動画ではこのような表現が多く登場します。理解しておくと、参考にしたいトレーニング方法や、細かな注意点(ポイント)などを踏まえてトレーニングが行えるので知っておいて損はありません。


トレーニング効果を最大限得るために水泳選手にも知って欲しい。2.肩関節の構造

肩関節とは、肩甲骨・上腕骨(腕の骨)・鎖骨・胸骨・肋骨からなる複合関節で、その中核を成すのは肩甲骨・鎖骨・上腕骨(腕の骨)です。さらに、肩甲骨と鎖骨2つをセットで上肢帯(じょうしたい)と呼びます。
そして、肩関節は、肩甲骨・上腕骨・鎖骨・胸骨・肋骨からなる複合関節だと言いました。実際には5つの関節で構成されています。

①肩甲上腕関節 [肩甲骨+上腕骨(腕の骨)]
②肩鎖関節 [肩甲骨+鎖骨]
③胸鎖関節 [胸骨+鎖骨]

④第二肩関節(肩峰下滑液包)
⑤肩甲胸郭関節 [肩甲骨+胸骨]


この内、①〜③は骨と骨で繋がり
④〜⑤は筋肉によってそれぞれが繋がっています。

そして、肩関節において重要な上肢帯(肩甲骨+鎖骨)は以下の様に連結しています。

肩甲骨は以下の3ヶ所で連結しています。
①肩甲上腕関節 [肩甲骨+上腕骨(腕の骨)]
②肩鎖関節 [肩甲骨+鎖骨]

⑤肩甲胸郭関節 [肩甲骨+胸骨]

鎖骨は以下の2ヶ所で連結しています。
②肩鎖関節 [肩甲骨+鎖骨]
③胸鎖関節 [胸骨+鎖骨]


この内、上肢帯(肩甲骨+鎖骨)が体幹部と繋がっているのは、③の胸鎖関節のみです。つまり鎖骨だけ体幹と繋がっており、肩甲骨は筋肉でのみ体幹と繋がっています。
この、肩甲骨は筋肉でのみ体幹と繋がっている。というポイントだけでも押さえておいて下さい。

トレーニング効果を最大限得るために水泳選手にも知って欲しい。3.上肢帯の役割

さて、この上肢帯(肩甲骨+鎖骨)にはどの様な役割があるのでしょうか??
とてもざっくり言うと、腕を動かすのに必要で、バンザイ動作や腕を体の前後で動かす時など様々な部分で関与します。そのため、スポーツ動作のみでなく、日常動作においても重要な役割があります。

腕をバンザイすると、肩甲骨も連動して動きます。
腕を90度開けば、肩甲骨は30度開く。
バンザイ(腕を180度開く)すれば、肩甲骨は60度開く。
この様に上腕骨(腕の骨)と肩甲骨は 2:1 の割合で連動しており、これを肩甲上腕リズムと呼びます。これが正常に働く事で以下の様な動作が可能です。

【日常動作】
▶洗濯物を干す (バンザイ動作)
▶物を取る時など (腕を前に出す)
▶キャリーバックを引く (腕を後ろに出す)

【水泳動作】
▶ストリームライン (バンザイ動作)
▶キャッチ〜プル(バンザイ〜腕を前に出す)
▶プル〜フィニッシュ(腕を前〜後ろに腕を出す)
▶フィニッシュ〜エントリー (腕を後ろ〜バンザイ)

様々な部分で関わりますね。この上肢帯(肩甲骨+鎖骨)が上手く動かない状態では、これらの動きができず、肘から先しか動かせません。そうなると、机に座って字を書くぐらいの作業しかできません。

水泳動作であれば、極論ですが、気をつけ姿勢でスカーリングしかできないと言う事ですね…笑
つまり、上手く動いていない状態(肩甲上腕リズムが破綻している状態)で練習しても、クロールの形はできるけど、水がかからない。泳ぎが伸びずに沈んでしまうなどの問題が起きそうです。

さて、この上肢帯(肩甲骨+鎖骨)、特に肩甲骨は筋肉でのみ体幹と繋がっているとお話ししました。この辺りからも、肩甲骨周りのトレーニングの必要性は見えてきそうですね…。

トレーニング効果を最大限得るために水泳選手にも知って欲しい。4.肩関節のインナーマッスル

さて、もう一つ覚えておきたいのは、肩のインナーマッスル。皆さんがチューブで肩のインナーを行っているものですね。


棘上筋(きょくじょうきん)
肩関節を外転(横からバンザイ)する時に働きます。
水泳では、リカバリー 〜 エントリーで使われます。

棘下筋(きょくかきん) / 小円筋(しょうえんきん)
この2つの筋肉は、腕が外旋(外側に捩れる時)に働きます。水泳では、フィニッシュ〜リカバリーの時に使われます。

肩甲下筋(けんこうかきん)
この筋肉は、腕が内旋(内側に捩れる時)に働きます。水泳では、キャッチの部分で使われます。

中でも棘上筋は、肩甲骨の一部である肩峰(けんぽう)を潜り、腕の骨に付着しています。その間には第二肩関節(肩峰下滑液包)が存在しています。棘下筋と肩峰下滑液包、この2つは怪我をしやすい代表格なので覚えておいてください。

さて、この肩関節、実は非常に不安定なんです。イメージとしては、おちょこの上に野球ボールを乗せている状態です。それをこの4つの筋肉が四方から包み込み安定させています。

特に棘上筋は、腕を挙げる際に肩の関節を安定させる (腕の骨が関節に上手くはまるようにしてくれる) のですが、この筋肉が疲労し動きが悪くなる・姿勢不良により肩回りが力んだ状態で泳いでしまうと、肩甲骨の一部(肩峰)と腕の骨の間で挟まり損傷します。これをインピンジメント症候群と言います。

特に水泳は腕を回し続けるため、これらの筋肉を酷使し、疲労による怪我が多いです。これを防ぐためにトップの選手はチューブを用いて肩のインナーを強化し、筋持久力を高めているのです。(もちろん、練習後のアイシングもしています!)
因みに、肩を故障するとなかなか調子は戻りづらく、復帰までに数か月要することも多いので、怪我をする前にしっかりと対応しておきましょう。


まとめ

今回は、座学編として肩関節のお話をしていきました。トレーニングの効果を少しでも多く引き出すには、理解を深めていく事が大切です。特に学生アスリートの場合、限られた時間の中で取り組んでいく必要があります。だからこそ、学びを深めてより濃い練習を積めるように挑戦してみて下さい!

理解するには時間がかかるので、まずは2つ。
①肩甲骨は筋肉で体幹部と繋がっている。
②肩のインナーは上手く機能しないと関節内で挟まってしまい、復帰には数ヶ月かかる。

だから水泳ではこの部位のトレーニングが重要視されるのか!
ざっくりで良いので、これだけでも覚えてください。

今回ご紹介した内容を踏まえて、トレーニング動画も準備を進めています。
次回は肩甲骨について解説を予定しています。

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